NOVELLER
私の名はナズーリン。
ヴァイシュラヴァナ様。日本では多聞天、もしくは毘沙門天と呼ばれる仏神に使える者だ。
今日は皆に対して言っておきたい事がある。
私が現在直接使えている毘沙門天様の弟子、寅丸星についてだ。
ご主人──寅丸星はかつてこの小さな島国の辺境の山奥に住む一介の妖獣に過ぎなかった。にも関わらずその人格と能力を買われ、ここ命蓮寺の僧である聖白蓮の推挙により、毘沙門天様の弟子兼命蓮寺におけるご本人の代理としての地位を認められた。
訳あって任命された後命蓮寺は聖を始めとするほとんどの者が居なくなってしまったが、ご主人はその後数百年間、親しい者達が居ない寂しさに耐え黙々と毘沙門天様の代理としての職務を全うしてきた。
それが単なる責任感によるものなのかそれともまったく別の感情に起因するものなのかは私にはわからない。だが少なくとも数百年の間たった一人──私を含めても二人のみの状況で負の感情に押し潰されず、黙々と己の職務を過不足無くこなしてきた事は彼女の上げる事にはなれど下げることにはならない筈だ。
確かに私は現在付き人としての立場ではあるが、元々は妖怪であるご主人の行動を監視することが本来の任務である。
しかし今となってはそんなことは無意味と確信できるほどに、ご主人は真面目で優秀な方だ。
そう、優秀な方なのだ。
が何故か知らないが、世間一般では……
“寅丸星はよくうっかりミスをやらかし、部下であるはずのナズーリンに対しまるで『ド○えも〜ん(泣)』と泣きつくの○太クンのような駄目駄目のショウちゃんww”
……みたいなイメージが浸透してしまっているらしい!
どういうことだ?
私はさっき言ったろう、優秀な方だと。
にも関わらず何故そんなイメージが広がってしまっているのだ。
私のせいなのか?
詳細は言うわけにはいかないが、ご主人がうっかりあの大事な宝塔を失くしてしまい、従者である私に探してくるように命じたのは事実だ。
しかしそれだけのことで何でここまでご主人がうっかりをやらかしまくる迂闊なキャラだという認識が広がるのか?
私は他のご主人のミスを誰かに話したことはないし、そもそもそんなミスをやらかすこと自体多くない
……多分。
やはりあれか? それを話してしまった相手が悪かったのか?
うっかり宝塔を失くしたという事実を言ってしまった相手があの白黒の魔法使いなのはまずかったか。
確かにあいつなら会話の中で妙に印象に残っている部分を自分で勝手に解釈した挙句、そうとうに誇張して周りに広めるとか平気でやりそうだ。
……やはりあの白黒には一度しっかりと話をしておいたほうがいいようだな。
まあいい。
だがはっきりと言っておく。
私のご主人は決してうっかり属性のオンパレードな駄目っ虎ショウちゃんでは無い!
寅丸星は毘沙門天様から、黙認という形ではあるもののしっかりと弟子と代理の職を任せられるほどの優秀な妖怪なのだ。
皆にはそのことをしっかりと覚えておいてもらいたい。
「……勢いで書き殴ってしまったが、こんな文章人に見せられないな。
普段からご主人に対して事務的に冷めたような感じで接している私が、こんな風に強く擁護するような文を書いてしまうとは……いくらなんでも恥ずかしすぎる。
……というか何故私はこんなものを書いたんだ? 意味が分からん」
「そうかなー? たまには本音をしっかりとぶつけるのもいいんじゃない」
「なっ!? 一輪っ! いつの間にそこに、っていうか何勝手に見てっ」
「ふふふ、まあいいじゃない。私はナズが星のこと大好きなのはよ〜く知ってるから」
「な、何を言って」
「さ〜て、せっかく書いたんだし皆にも見せてあげないとね! もちろん星にも」
「コ、コラ! 勝手に持っていくなーっ」
私はナズーリン。
毘沙門天さまの弟子、寅丸星に使える者だ。
とりあえずこれだけは言っておく……
私もご主人もネタ要員では決してないからなっ!