NOVELLER
火焔猫燐はいつものように無数の怨霊たちに囲まれながら、せっせと人間の死体を運んでいた。
だがその途中で、適当に選んだ死体の一部に目がいった。
腰の横の部分に何か入っているらしい不自然な膨らみがある。
何となくそれを取り出してみると、多少厚みのある小さな板のようなものだった。
大きさは大体自分の手を広げたのより一回り大きいくらい。
全体は黒い色で何となくテカテカしている。触ると指紋とか付くのがはっきりとわかるような素材だ。
片方の面にだけ大きな窓のようなものがあり、その周りにはボタンのようなものが沢山ついている。
とりあえず今まで見たこともないものだった。
「? 何だろうね、これ?」
午前中に事務仕事を終わらせたさとりは地霊殿の中を見て回っていた。
仮にもここの主である。
普段から様々な事柄に対して気を配っておかなくてはならないのだ。
いつものように建物の中をぐるりと回った後、彼女は下層にある灼熱地獄跡の様子を見に下りた。
ここには彼女のペットの中でも特に古株のお燐とお空がいる。
色々と問題事も起こしたりするが、さとりは二人のことを信頼していた。
お空は素直だし、お燐もなんだかんだ真面目なので今日もしっかり仕事をしてくれてることだろう。
だがお燐の持ち場に来たとき彼女の姿は見えなかった。
「あの子ったら、どこに行ったのかしら」
普段通りならここで怨霊たちに囲まれながら猫車をつかって人間の死体を楽しそうに運んでいるはずだ。
今日は特別何か予定があるとは聞いていないし、今朝方も意気揚々と仕事場に向かう彼女をこの目で見ている。
「お空の所にでも行っているのかしら?」
そう思って歩き出した時、奥のほうから聞き覚えのある声が聞えた。
この声はお燐のものだ。
声は前方の物陰から聞えてきている。
近くにいって覗き込むと案の定そこにお燐がいた。
「おおおっ、この! でやああっ!」
「……?」
彼女は何か見慣れないものを手に持って、それを凝視しながら奇声を上げていた。
「……お燐、あなた一体何をやっているの?」
「このおっ! ……って、え? あ、さとり様?」
声をかけてようやく気付いた。
「あなた仕事は?」
「い、いやこれは、ええと……」
どもりながら彼女は手に持った何かを後ろに隠そうとした。
それを問答無用で取り上げる。
「ああっ」
「ああっ……じゃないでしょ、お燐。仕事をさぼって何してたの? これは何?」
取り上げたものを見つめる。
極めて人工的な形の奇妙なものだ。少なくとも幻想郷でお目にかかったことは無い。
お燐はばつが悪そうに目を逸らす。
「ええと……何でも外の世界の玩具、だそうです」
「玩具? これが?」
「はい、そこの怨霊に教えてもらいました」
周りを見ると沢山の怨霊が飛んでいた。
そこの、とは言われてもどの怨霊を指しているのか。さとりには見分けがつかないのでさっぱり分からない。
とりあえずその玩具とやらを見てみると、片側にある大きな枠の中で人間のようなものが向き合い何やら
弾のようなものを撃ち合っていた。
「……なんなのこれは」
「しゅ〜てぃんぐ、とか言うものらしいですよ。相手の撃ってくる弾をかわしながら逆に弾を撃ち込んでいく遊びらしいです」
どっかで聞いたような気がする遊びだ。
「……面白かったかしら?」
「ええ、そりゃもちろん!」
「そう……仕事を忘れるくらいに?」
「………………」
「………………」
「………………あ、あの」
「第三の眼で見るまでもなかったようね」
「……ええと」
ゆっくりと後ずさるお燐。
とりあえず逃がす気はない。
「お燐……」
「………………はい」
「お仕置きです」
その日、地霊殿に猫が尻尾を踏まれた時のような悲痛な叫びがこだました。
数日後。
幻想郷の中でも外の世界に詳しいスキマ妖怪が、
『あらあら、まだ幻想になっていないような新しいゲーム機が手に入るなんてついてるわ』
と はしゃいでいたとか何とか。